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東京高等裁判所 昭和55年(ラ)1067号 決定

抗告人

佐野大治郎

右代理人

八木新治

相手方

有限会社妙蓮寺書房

右代表者

森田益次郎

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及びその理由は、別紙のとおりである。

一抗告の理由一について

本件記録によると、相手方(申立人・債権者)と抗告人(債務者)間の原審昭和五五年(ヨ)第九六八号仮処分命令申請事件について、原裁判所は、同年七月二五日、「債務者は決定正本送達の日から二日以内に、債権者が別紙物件目録記載の建物内に設置しているクーラーを使用できるよう、右建物の外壁にあるクーラー用電源スイッチを入れなければならない。」との仮処分決定をし、該決定はそのころ相手方(申立人・債権者)に送達されたこと、ところが、抗告人(債務者)が右決定の作為義務を履行しないとして、相手方は、民法四一四条二項、民事執行法附則三条の規定に基づく改正前の民訴法七三三条により、同年八月八日、原裁判所に対し本件代替執行決定の申請をし、同年八月二七日日本件代替執行決定(授権決定)がなされたこと、以上の事実を認めることができる。

ところで、仮処分命令の執行は、命令を言渡し(判決の場合)又は申立人に命令を送達し(決定の場合)た時から、一四日の執行期間を徒過するときは、これをなすことが許されない(民訴法七五六条、七四九条二項)が、本件のように債務者にいわゆる代替的行為を命じる仮処分について、さらに民法四一四条二項、前記民訴法七三三条に基づき代替執行決定(授権決定)の申請をする場合には、前記一四日の期間内に右申請をなせば足り、必ずしも右期間内に代替執行決定がなされる必要はないと解するのが相当である。

前記認定した事実によると、本件代替執行決定(授権決定)の申請は、仮処分決定が申立人たる相手方に送達されてから一四日の期間内になされたことは明らかであるから、これを前提としてなされた原決定は相当であり、原決定に所論の違法はない。

二抗告の理由二について

本件記録を精査するも、原決定に所論のような違法、不当な点があると認めるに足りる資料は、何ら存在しない。

その他に原決定を取消すべき違法の点を発見することができないから、本件抗告は理由がなく、これを棄却することとし、抗告費用につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(倉田卓次 井田友吉 高山晨)

〔抗告の趣旨〕

原決定を取り消し、さらに相当の裁判を求める。

〔抗告の理由〕

一、原決定は民訴七四九条二項の解釈適用を誤り許されない授権決定をなした違法がある。

民訴七四九条二項は仮処分命令の執行についても準用のあることは法七五六条によつて明らかなところ、横浜地方裁判所は裁判所昭和五五年(ヨ)第九六八号仮処分命令申請事件について年七月二六日仮処分決定をなし、これに対する裁判所昭和五五年(モ)第二三七二号仮処分申請事件は年八月八日債権者より代替執行(授権決定)申請があり、月二七日原決定が発せられたことが明らかである。

民訴七四九条二項の執行期間について通説は執行着手の期間と解し執行の申立だけでは足りないものとなし、作為を命じた仮処分については民法四一四条二項民訴七三三条の授権決定が発せられたときに執行の着手ありと解せられている。(司法研修所編増補改訂民事弁護の手びき一一七頁執行期間の項参照)

原決定は債権者の代替執行(授権決定)申請が八月八日にあつたに止まるに拘らず、敢えて月二七日発せられたものであつて民訴七四九条二項の解釈適用を誤つた非違を犯したものであり、到底取り消しを免れないものと信ずる。

二、原決定は債務者の権利を無視し、債権者の主張に迎合した不当な決定である。

(一) 原決定主文に所謂別紙物件目録記載の建物内に設置しているクーラーは、債権者が債務者に賃貸している店舗に自ら設置しているのであるが債権者は右店舗のみを賃借しているのであり(別添疏明資料四の朱斜線の部分)債権者は右店舗より程遠からぬ場所に立派な邸宅を有しているのである。

これに反し債務者は右店舗に接続する建物内に居住し、すなわち生活の本拠なのである。されば右クーラーを使用することによつて生ずる屋外ユニットの騒音熱気の家族等に及ぼす身体、精神上の被害を少なくするため電源スイッチを入れ店舗のクーラーを使用するについて債権者の営業に支障のない限度において時間的制限を要求し、その協力を求めているのであつて、かかる要求は相当であり相隣関係にある者として当然のことであろう。而して本件電源スイッチ及び屋外ユニットは債権者の懇望により債務者が設置を認めているものであり債権者は思慮を受けているものであるということを看過してはならない。

(二) 債権者は債務者のいやがらせだとか、裏木戸はいつも鍵がかかつているとか理由のない理由を主張しているが債務者は店舗について働いている以上、奥居室が留守になるので盗難予防などのため裏木戸に鍵をかけておくというようなことは、けだし世間一般の慣行であり当然の常識であろう。そのために、裏木戸の上部には訪問者用チャイムのボタンが備えつけてあり、又店舗に廻つて連絡することもできるのであつて電源スイッチを入れないのは、債権者が債務者方を訪れることを回避し自らなすべきことをなさないのに過ぎないのである。

尤も、七月二五日付仮処分決定があつた後、債務者は、いたく債権者の行為に不快を感じていた折柄、七月末、第三者より債権者の仮処分申請について、詫びを入れさせるから電源スイッチを入れさせてくれという話があり、それならばその旨の書面を入れるよう要求した事実があつたが、債権者はそれを快よしとせず今日に至つている事実はある。然しながら自らなすべきことをなさずして電源スイッチを入れる責任を債務者に転嫁した仮処分決定に対し人間として不愉快を感じない者はいないであろうし、詫状が問題ならば他に話し合いの場もあるであろう。

本件争いの根源は一つに債権者にあるに拘らず債務者のみの責任と帰した原決定は極めて不当である。

(三) 仮に原決定に従い、強制執行が行われた場合、電源スイッチを入れることによつてその侭の状態が長期に継続したとき東電側のスイッチの開閉に関する安全調査に対し如何に対応すべきか、また電源スイッチを入れた侭、放置することによつて生ずる虞ある危険の発生に対して誰が責任を負うかを明示せられたいのである。

(四) その余の債務者の主張は仮処分の決定に対する異議申立、代替執行(授権決定)申請に対する答弁書記載の内容と一であるからにこれを援用する。

叙上の理由により原決定は民訴七四九条二項に違背するものとして取り消さるべく、更に公正な裁判を仰ぐため民訴五五八条により本抗告に及んだ次第であります。

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